1973年に放送された連続ドラマに『市川シリーズ・追跡』(フジテレビ系関西テレビ制作)という作品がある。タイトルの通り映画監督市川崑が監修したドラマ番組なのだが、本作は日本ドラマ史上ではしく、俳優のボイコットにより放送が打ち切られたドラマなのだ。

 本作は中村夫演じる事件記者が諸々の事件の相を追いめるという社会の内容。全19話の制作が予定されていたが、前述のボイコットにより16話をもって完結してしまった。

 当時『追跡』の打ち切りを報じる新聞記事によると、第16話「汚れた天使」(脚本:石堂淑朗)の監督を当時、若者に絶大な人気を誇っていた舞台演出の唐十郎に依頼。しかし、出来上がった作品は、唐独自のアングラ色の強いもので、完成品を見た局のプロデューサーたちは「お茶の間の理解を得ることができない」と判断し、唐の許可なく本作の放映を「飛ばし(未放映)」にしてしまったのだ。

 当然、唐十郎は激怒。「放送しなければ(関西テレビとは)絶縁する」と宣言した。すると、演の中村夫、共演者の常田富士男、助監督が唐の考えに呼応するように「今後の撮影には参加しない」との明文を出してしまったのだ。

 しかし、関西テレビは考えを曲げず頑として「汚れた天使」を放送せず、交渉は決裂。『追跡』の撮影は不可能となり、最終回は描かれることなく打ち切りとなってしまったのだ。

 なお、「汚れた天使」の内容はおおむね、石堂淑朗の書いた脚本通りだったが、不破万作が演じるおばさんは「グロテスク気持ち悪い」と関西テレビのウケが非常に悪かったという。また、の姿をした人間が常田富士男を追いかけ回すシーンが「わけが分からない」と理解されなかったという。当時の新聞によると、シーンプロデューサーによっては「思わず笑ってしまった」と評価している部分もあるが、最終的には「これでは視聴者理解できない。社会ドラマに必要なリアリティーも感じられない」との判断が下され、放送に至らなかったというのが真実のようだ。

 なお、唐十郎は後に編集中のクズフィルムつなぎ合わせ、99%ボツ作品と同じの自版「汚れた天使」を制作。出演者や新聞記者、一般のお客さんを呼び、六本木自由劇場ほか全7カ所で自上映会を催し、日のを見たという逸話がある。

 ちなみにこの自主制作版の「汚れた天使」は2005年に再上映されているが、近年は上映した形跡がない。また『追跡』そのもののソフト化もいまだ実現していない。該当エピソードとともに「幻のドラマシリーズ」となっている。

文:穂積(山口太郎事務所)

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(出典 news.nicovideo.jp)


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